「誰がお前の味方なんてするっつったよ?」
銀髪の男はそう言いながらも、怠惰な一振りで昇太郎の背後に迫っていた妖魔を屠る。大して力も入れていないくせに、銀に煌めいた刀は易々と妖魔を切り裂いた。肉を裂いているはずなのに、何処か小気味いい音が響く。
「そうか。……なら、構わず斬ってええ、って事やな?」
「んな訳あるか」
に、と不適な微笑で返す昇太郎に、銀髪――ミケランジェロは鼻で笑ってみせた。
「味方じゃないイコール敵、って訳じゃねェんだ、単純思考」
「なら何よ?」
「そうだな――……」
真後ろで、ミケランジェロが刀を構え直す気配がする。昇太郎はその事に気付き、僅かに瞠目した。
味方ではないはずの相手に、背中を預けている自分が居る。そして、相手もごく自然に、自分に背中を預けている。辛うじて顔には出さなかったが、昇太郎はその事実に酷く驚いていた。
彼は元々誰かと共闘する事が得意ではない。たった独り永遠の夜を歩き、誰の目にも見えない敵と戦い続けた修羅は、いつしか独りで戦う事に何の感慨も抱かなくなっていた。孤独だなどと、思う事も出来なくなっていたのに。
背中を預ける相手が居るだけで、こんなにも心強い事を、初めて知った。知って、昇太郎は笑った。
昇太郎の喉から零れた笑い声に気付いたのか、ミケランジェロも薄く笑んだ様だ。
「……お前の味方をするつもりはねェが、その背中を護るくらいはしてやる。死にたがり」
「死にたがり言うな。……それは味方と違うんか」
「違うな。お前の味方なんざ反吐が出る」
「阿呆。お前みたいな奴、こっちから願い下げじゃ」
ひとしきり軽口を叩き合って、また笑う。
「……さて、お喋りは終わりだ」
背後で、片足を退く気配。昇太郎もそれに合わせて、諸手の刃を降ろした。「戦う気はあるのか」とさえ問われた事もある、彼独特の構え。ミケランジェロはそれを知っていたから、何も言わなかった。ただ、気を前方のみに集中させる。
「――行くぜ」
低いその呟きを合図に、二人は地面を蹴った。
勢いづいてやったはいいんですが、これ8の「背中は預けたぞ」でもいい気がしてきた(何)
でも書いてて物凄く楽しい。こんな二人であってほしい、と言う願望も込めて。
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