[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
或る昼下がりの対話
部屋の床に広がる色褪せた赤に、深い色の影が重なる。洋燈の光に照らされ、影の持主の右目に掛けられたモノクルが、一度強い輝きを放った。 「あの時の考察の答えを、今此処でお話ししましょう。聞いていただけますね?」 「ええ。もちろん、聞かせていただきますわ」 漆黒と深紫が柔らかく細められる。二色の視線の先で佇む女もまた、その美しい貌に優雅な笑みを浮かべて頷いた。誰にも等しく降り注ぐ光は、女の中指に嵌められた指輪をも照らし出し、輝かせる。 「この事件は、現実に起こったものです。決して、映画などでは無い。銀幕の殺人鬼も、この街ではただの美しい女性だ。――その逆もまた、然り」
窓の向こうでは、燃える茜に染まった空が、微かに傾き始めている。 地平の果てから迫って来るのは――淡紫を纏って美しく誘う、逃れようの無い宵闇だ。