<天使>の腕に抱かれた少女は、最期の瞬間とても幸福そうだった。
素直に毒を飲み下して、優しく抱き締め返してくれた。てんしさま、ないているの?舌足らずな口調で、そう問いかけてくれた。大丈夫、泣いていないよ。そう応えたら、嬉しそうに笑ってくれた。
ありがとう
を伝える前に、少女は息を引き取っていた。
少女の死を確認した直後、<天使>の顔を封じた。凍った眼差しで、証拠が残っていないか周囲を見渡す。毒が入っていた瓶をポケットに仕舞って、少女をベッドの中に横たえた。
横たわった少女を、冷めた瞳で見下ろす。
後悔は、していない。謝罪の言葉も、口にしない。この罪は、この魂が消えるまで抱えていくと決めたから。
少女の栗色の髪を、優しく撫でる。元から白かった頬は、血の気を失って青みを帯びている。それでも、少女は変わらず愛らしかった。
<天使>の顔に戻って、微笑んだ。届く事のなかった言葉を、もう一度呟いて、
その額に、最後の祝福を。
胸元のペンダントを握り締めて、その場を去った。
背中の傷が疼く。在りもしない翼が、焼ける様に痛む。
それは、<天使>としての最後の良心だろうか。
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