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オンラインノベルRPG「螺旋特急ロストレイル」の個人的ファンサイトです。リンク・アンリンクフリー。

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プロフィール
HN:
カツキ
性別:
女性
自己紹介:

ツクモガミネットに愛を捧ぐ(予定)のPL。
アクション・スプラッタ系のシナリオを好む傾向にあり。超親馬鹿。


当家の面子
鰍(カジカ):
コンダクター。私立探偵のはずだけど現状はほぼ鍵師扱い。銀細工とか飴細工が得意の兄さん。名前がコンプレックス。

歪(ヒズミ):
ツーリスト。三本の剣を携えた、盲目の門番。鋼の音を響かせて舞う様に戦う、人と同じ姿の異形。

灰燕(カイエン):
ツーリスト。白銀の焔を従える、孤高の刀匠。刀剣と鋼の色を愛し、基本人間には興味が無い。人として危険なドS。
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 闇夜に翻る、漆黒のマント。
 妖怪達と甘い匂いが溢れ返る街並みを、一人の仮面の男が駆け抜けて行く。男の奇異な格好も、今日この日だけはあまりに自然に街に溶け込んでいる。楽しげな喧騒に包まれて、仮面の下から覗く口元には笑みが浮かんでいた。肩に夢見る獣を乗せた狼少年が彼に気付き、「“音楽の天使”だ」と感嘆の声を上げる。
 男は通りの突き当りまで走ると、立ち止まって颯爽と振り返った。右手を胸元に当て、芝居がかった礼を一つ。その手には、青銀に輝くトランペット。
 そして、たった一夜だけの合言葉を高らかに謳い上げた。


「Trick or Treat!」



 

「……何じゃて?」
 突如訪れた仮面の男、ドアを開けた途端放たれた謎の言語に、昇太郎が目を丸くする。
 異世界人である彼は、こちらの世界の言葉や行事には疎い。目の前の男、昇太郎がよく知っているはずの彼が何故こんな奇異な格好をしているのかも解らず、首を傾げる事も忘れてただ瞬きを繰り返すしかなかった。
「Trick or Treat。お菓子くれなきゃ悪戯するぞ、って意味なんだよ。去年もやってたろ?」
「去年? そんなんあったか……?」
 仮面の男が朗らかに笑い、説明する。昇太郎はそれでも合点がいかない様子だったが、
「あー、無理無理。去年そいつ、殺人鬼と殺し合ってたから」
 不意に部屋の奥から響いた声に、男と二人で振り返った。
 今の今まで寝こけていたのか、ソファの上に半身を起こしたミケランジェロが眠たげな視線を二人に寄越していた。怠惰な紫は普段以上に細められ、二人を、と言うよりは、その向こう側の空間を見据えているかの様に焦点が定まっていない。
「ミゲル」
 やっと起きてきたか、と呆れ顔で昇太郎がその名を呟き、その後ろから伸びあがるようにして仮面の男がミケランジェロを見て、問う。
「殺人鬼? それって、仮装とかじゃなくて?」
「あァ。……それよりも昇太郎。んな所に突っ立ってないで、中入れてやったらどうだ」
「……ん? ああ、そうじゃ。すまんかったな、ディズ」
「いいっていいって」
 緩慢な動作で銀髪を掻き混ぜたミケランジェロの、常よりも掠れた眠気の醒め切っていないその声に促されて昇太郎がドアを塞いでいた身体を横にずらせば、お邪魔しまーす、と呑気に呟いて仮面の男――ディズが部屋に足を踏み入れた。その手に青銀のトランペットが握られているのに気づき、昇太郎は彼らしいと微笑を溢す。
 仮面の奥の銀色が、何気ない仕種で天井を見上げた。途端、
「うわッ、すっげー!」
 上がる、感嘆の声。ソファの背凭れで頬杖をつきながら、ミケランジェロがニヤリと笑った。
「これ全部、ミケが描いたのか!?」
「当たり前だろ。他に誰が居るよ?」
 顔の半分を覆っていた仮面を外し、青銀の瞳をいっぱいに開いて天井を見上げる。そこから壁へと視線を移し、ぐるりとその場で廻った。
 紫とオレンジの、独特なカラーリング。鼻を突く刺激臭は、まだ微かだが残っている。
 壁一面と天井いっぱいに描かれた、鮮やかなグラフィティアートが、部屋中に広がっていた。圧迫するように毒々しい色彩だが、同時に賑やかで騒がしく楽しげにも見える。所狭しと描かれているお化け達が今にも動き出しそうに見えるのは、或いは本当に動いているからなのかもしれない。幽霊であるはずの彼らでさえ、生き生きとしている。その間にぎゅうぎゅうと詰め込まれた菓子に至っては、デフォルメされた絵柄なのに手を伸ばしてつまみ食いしてしまいたくなるような。圧倒的な、光景だった。
「すっげぇなー……さっすが神様だ」
「褒めても何も出ねェぞ」
「ッはは、解ってるって」
 すげぇなー、と同じセリフを繰り返しながら天井を仰ぎ続けるディズに、ミケランジェロは小さく頬を緩める。首が痛くなるぞ、と忠告すれば、子供の様な素直さで顎を引いた。
「……しかし、それ」
「ああ。似合うだろ?」
 振り返ったディズは目を細めて微笑し、おどけた仕草で仮面を顔にあてがった。普段の青いスーツとは違い、今日の彼は白のシャツに黒いベスト、黒のスラックスを身に付けている。遠目から見ても良質の生地で出来ていると解る、滑らかな質感。その上から厚手の、裏地が赤い漆黒のマントを羽織っている。普段帽子の下であちらこちら跳ねている髪は後ろへ流して撫で付け、仮面の邪魔にならない様にセットされていた。
「“音楽の天使”、か。……ハロウィンにそのチョイスは微妙だが、まァ、お前らしい事この上ねェな」
「それ、褒めてるのかそうじゃないのかよく解んないな? でもま、サンキュー」
「……のぉ、ディズ」
 二人が笑みを含めながら会話するのを訝しげに見やっていた昇太郎が、問いかけの声を上げる。
「ん、どした、ショータ?」
 仮面をしっかりと掛け直したディズが、恐ろしげなその姿に似合わぬ朗らかな笑みを浮かべた。
「それは、何の格好なんじゃ?」
 現代人であるミケランジェロはディズの姿にピンと来るものがあるようだが、異世界人である昇太郎はただ首を傾げるだけだった。仮面にマントなど、彼にとっては不審者以外の何物でもない。
「何って……ああ、ショータは知らないのか」
「俺にはお前が知ってた事すら驚きだがな」
「映画見たんだよ。面白かったぜー」
 至極無造作に、しかし愛おしそうに、右手にぶら下げていた青銀のトランペットを顔の高さまで持ち上げると、口元に宛がう。一度スケールを低音から高音まで滑らかに吹いた後、深く息を吸い込み、誇らしく堂々とした音色を吹き鳴らした。
「……へェ」
 ミケランジェロが、眠たげな目を小さく輝かせた。ディズが奏でる曲が、自らの記憶と随分違って聴こえたから。
 禍々しく美しい深淵から誘い掛ける様なメロディを、高らかに、そして華やかに。響き渡らせる様に、青銀の音色で謳い上げる。
 昇太郎は相変わらず首を傾げたままで、しかし屈指のトランペッターの演奏に興味深げに耳を向けているようだった。
「……“The phantom of the opera is there, inside your heart.”」
不意に耳に飛び込んできた、耳慣れない言語。穏やかな抑揚と音程の付いた、それは歌声だった。昇太郎は思わず声のした方に目を向けたが、視線の先の男はただ昇太郎に一瞥を返し、眉をぴくりと上げてみせただけで、しかし怠惰なその表情には、僅かだが確かに笑みが浮かんでいる。
「ミゲル、今――」
「オペラ座の怪人、って言うんだ」
 昇太郎の言葉を遮るようにして、ディズが口を開いた。音楽は既に、止まっている。
「この格好」
 肩を竦め、マントを大きくはためかせる。茶目っ気のあるその笑顔は怪人と呼ぶにはあまりに朗らかだったが、仮面を着けた顔の右側は、それでも何処か畏ろしさを残している。
「劇場の地下でひっそり暮らす、顔の焼け爛れた男。音楽に対する才能が高かったから、“音楽の天使”とも呼ばれるんだ」
カッコいいだろ? と同意を求められたが、昇太郎は肩を竦めた。
「俺にはよぉ解らんが……今の曲はええな」
「へへ。サンキュ」
 仮面に隠れていない側の目でディズが朗らかに笑い、トランペットを顔の前に掲げて一礼して見せた。
 

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