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オンラインノベルRPG「螺旋特急ロストレイル」の個人的ファンサイトです。リンク・アンリンクフリー。

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プロフィール
HN:
カツキ
性別:
女性
自己紹介:

ツクモガミネットに愛を捧ぐ(予定)のPL。
アクション・スプラッタ系のシナリオを好む傾向にあり。超親馬鹿。


当家の面子
鰍(カジカ):
コンダクター。私立探偵のはずだけど現状はほぼ鍵師扱い。銀細工とか飴細工が得意の兄さん。名前がコンプレックス。

歪(ヒズミ):
ツーリスト。三本の剣を携えた、盲目の門番。鋼の音を響かせて舞う様に戦う、人と同じ姿の異形。

灰燕(カイエン):
ツーリスト。白銀の焔を従える、孤高の刀匠。刀剣と鋼の色を愛し、基本人間には興味が無い。人として危険なドS。
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……えーっと今幾つ?(聞くな) ひいふうみいよ……あ、8つか。

と言う事で、長い事放置プレイしていた「背中合わせで10題」の8つ目をアップ。
終わりが見えてきた……!(随分前から見えてました)


 危険が男の背に迫っていると気付いた時には、既に狙いを定めて跳躍していた。

 声を掛ける暇さえない。もっとも掛けてやった所で、男は感謝もしなければ回避動作の一つも取らないのだろうが。
 蛇を太くし鱗を剥ぎ取った様なグロテスクな異形を、着地と同時に踏み付けその背に刃を立てる。鋭い悲鳴が上がった後一巻のフィルムに姿を変えるのを確認して、臙脂色の後ろ姿に声を掛けた。
「……ガラ空きだぞ、背中」
「お前がおる」
 間髪入れず返された無愛想な答えに、笑いが零れた。「そりゃ光栄だな」刀を一度大きく振って、前へと向き直る。
足を踏み出そうとしたその時、すぐ後ろで「ザシュリ」だか「バサリ」だか大きな斬撃の音がして、一層高く笑った。
「何がおかしいんよ、お前は」
 この男、今日は特に虫の居所が悪いらしい。打ちたての玉鋼に似た声が刺々しく毀れていて、手の中の刃を思わず見下ろした。男の声とは違って、こちらは血に塗れてはいるが毀れてはいない。
「いや、別に?」
 最早笑いを抑えるのも面倒で、喉を低く痙攣させながら、鎌首を擡げた異形を胴から真二つに切り離す。返す刃で地面を撫ぜる様に弧を描き、這い寄って来ていた奴らを一掃する。
 背後で振るわれる剣撃は更に大振りで、切り裂かれた風が背中に届くほどだ。やはり機嫌が最悪だな、と勝手に結論付けて、ここ数日の自分の行動を思い返してみる。だが、思い当たる節は何も――全くないと言えば嘘になるが――無く、異形を切り捨てつつ小さく首を捻った。
 自分以外が原因だろうか、とちらりと考えて、しかしすぐにその可能性を打ち消した。生命どころか世界そのものにすら無上の慈悲を注ぐこの男の機嫌を損なわせるには、自分が関わらなければほとんど不可能と言っていい。恐らくは菩薩だろうが救世主だろうが、この『修羅』の深く広い器には敵いやしないのだ。そんな『修羅』が唯一慈悲をくれず素気無く接してくるのが自分であり、そしてこの不機嫌の原因も自分以外には考えられない。
「……なァ、俺何かしたか?」
「なにも」
 耐えかねて問い掛けても、返ってくるのは端的で切れ味良過ぎる玉鋼の声、ただそれだけ。何も無いなら何故そこまで気が立っているのか、と重ねて問いたくなったが、やめた。その問いが男の機嫌を更に損なう事くらい目に見えていたから。伊達に一年近く相棒をやっている訳ではないし、危険な橋を態々渡る様な愚かな事はしない。一度苦笑を声に出して、それきり口を閉ざして異形と向き合う。無防備なその背を狙う者を片端から斬り落としていく。
「――昨日、」
「ん?」
 真後ろに迫っていたらしい蛇を無造作に切り捨てた男が、立ち止まってぽつりと呟いた。先ほどまでの刺が殺がれたその声に、先を促す様に相槌を打つ。
「対策課の依頼で、スルトと偶然一緒になってな」
「包帯男か」
 合図もなしに二人で同時に地面を蹴り、それぞれの正面に居た異形を排除しに向かった。
「二人でヴィランズを退治しに行ったんじゃ」
「へェ」
 距離が離れても、会話は止まない。声量を大きくする事も無く、まるで世間話でもするかの様な調子だった。
「それで、どうしたんだ」
「一緒に戦っとったら、何や違和感があって」
「違和感?」
「それが何なんか、ずっと考えとった」
「……不機嫌の原因はそれか」
 悩み、後悔して損をした。思わず呆れ返ってしまい、目の前に居た蛇を腹癒せに踏み躙る。
「俺の所為じゃねェんだな?」
「いや、お前の所為じゃ」
「……俺は何もしてない、ってさっき言っただろうがお前」
 訳の分からない男だと抗議したくて振り返れば、男の鋼色の眼もこちらを向いていて、瞬間視線が交差する。最も、氷の様な一瞥をくれるとまたすぐに背を向けられてしまったが。
「誰と一緒に戦っとっても、色んなもんに気ぃ取られて上手く集中できんけぇ、俺は独りで戦うんが好きなんよ」
「今更何言ってやがる」
 そんな事は百も承知で、要らぬお節介を焼いていると言うのも百も承知で、それでもこの男に独りで戦う事を許さないのは他ならぬ自分なのだ。今更それを抗議されても、謝罪のしようもない。
「じゃのに、お前がおる時だけは、俺は何よりも――独りでおる時よりも安心して、戦える」
 しかし、予想を裏切って後に続いたのは、殊勝で真摯な、安堵と、ほんの僅かの苛立ちとを含んだ言葉で。
 不意を突かれ、呆気に取られてしまった。男が自分を信頼してくれている事くらい解っていたが、それを口に出して言われる事など、無かったから。
「……それが、何や無性に腹立つんよ。じゃけ、お前の所為じゃ」
 呆然としていた背中に、罰の悪そうな、照れを隠している様な声が届いて、我に返った。再び発作の様に湧いてきた笑いが、抑えられずに喉の隙間から零れ落ちる。愉快で堪らない、嬉しくて堪らない? どちらだろうかと自分に問いかければ、明快な答えが返って来て更に笑いが大きくなった。
「ッははは! ……残念ながら、それァ逆恨みって奴だな?」
「笑うな」
「んなに怒んなよ。俺の背中も守らせてやるから」
「要らんわ、そがん何の得にもならん権利」
「おいおい、酷ェな」
「当たり前じゃろうが。……早う終いにして、帰るぞ」
「――了解」

 フィルムが地面に落ちる、小気味良い音が量産されていく。
 

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